2. 踵の腫瘍を切除した後はどうやって再建するのだろう
踵は加重部分ですが、悪性黒色腫などの好発部位でもあり、切除した場合広範囲に皮膚が欠損することになります。普通に分層植皮や全層植皮を行っても、クッションの役割を果たす脂肪組織がない薄い皮膚しか植えることができませんので、加重に耐えられず歩行に支障をきたします。このような場合、同じ足底の土踏まずの皮膚を脂肪組織をつけたまま、同部を支配する血管柄をつけたまま踵部の皮膚欠損部に充填することで、QOLを劇的に改善できます。ここでは、踵部の悪性黒色腫を例にとり、この内側足底皮弁による再建について解説します。
踵部悪性黒色腫切除後の内側足底皮弁による再建
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踵部に悪性黒色腫が見られます。さあ、これから手術の計画を立てましょう。
腫瘍辺縁から十分な範囲をとって切除線を設定し、右図のように切除します。この場合同時に再建せず、生理食塩水ガーゼを当てるだけにしておきます。その理由は、病理組織学的に取り残しがないことを確認してから再建するため、および病理組織学的な腫瘍の厚さによって推奨される切除マージンが変わってくるためです。
病理組織の結果を待って二期的再建の計画を立てましょう。病理組織の結果によっては、追加切除を行います。厚みのある皮弁が生着するには栄養血管と一緒に移植する必要があります。内側足底皮弁では内側足底動静脈を使います。超音波ドップラーであらかじめ内側足底動静脈の位置を確認しマーキングしておきます(左図)。皮弁は右図のように土踏まずにデザインします。足の裏の皮膚は他部位にくらべて特殊で、厚い角質を持ち外力に強いため、同じ足の裏の皮膚を使って再建するのが最善なのです。
皮膚に切開を加え、深部にある内側足底動静脈を確認します。動静脈とも末梢では1mmに満たないほどの細い血管ですので、ちぎれないように丁寧に周囲から剥離していきます。すぐ脇には神経が伴走していますし、血管を損傷すると皮弁が完全に壊死しますので、慎重に進めていきます。土踏まず部の皮膚を脂肪組織レベルで切離し栄養血管を付けたまま皮弁を起こします。高いスキルレベルが要求されます。
皮弁が踵に移動できるようになるまで血管を剥離した後に、皮弁を踵に移動させます。途中の皮膚は真皮下で広く剥離して皮弁と血管の通り道を作ります。すなわち、土踏まずの皮弁と栄養血管を、皮下のトンネルをくぐらせて踵部に移動させる訳です。
皮弁を踵の皮膚欠損部に縫いつけたあとに、土踏まずの皮弁採取部位に植皮を行います。土踏まずは荷重部ではありませんので遊離植皮で十分オーケーです。ずれないように植皮はタイオーバー(右側の綿の部分)という方法で固定します。栄養血管を露出した部分は単純縫合します。
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手術はうまくいきました。患者さんも歩行に支障をきたさないことで、きっと満足されることでしょう!
この手術には繊細な技術が要求され、やや難度が高いとされます。皆さんも是非我々とともに、このような難しい手術をやってみませんか。そして患者さんが喜ばれる顔を見たいと思いませんか。