1. 形態は機能の要求に応じていかようにも変化しうる
汗腺上皮の走査電顕像
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生体で観察される形態は、常に機能側の要求に応じてその姿を変化させてきました。例えば、消化管は腹腔という極めて狭い環境に、吸収のための長大な臓器を格納するために、とぐろを巻いた様な形態をとり、さらにその内腔では襞構造をとり、さらに微細構造的に微絨毛を発達させました。これらは全て、腹腔という限られた空間内で吸収面積を増やせ、という機能の要求に応じた結果です。その結果生まれた微絨毛を走査電子顕微鏡で観ると、とてもバランスの取れた美しい構造であることがお分かりになると思います。皮膚の汗腺上皮も同様で、汗の分泌あるいは再吸収のための面積を確保せよ、との機能の要求で作られた微絨毛は大変美しい構造です。
イボのダーモスコピー
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イボ(疣贅)をダーモスコピーで観ると、木いちごの様な表面構造に、毛細血管が規則正しく走り、えも言われぬ美しい姿を見せます。病理組織学的に過角化、乳頭腫症、炎症細胞浸潤が観られます。なぜこのような形態をとらねばならなかったのでしょうか。
その答えは、機能(この場合イボウイルス側の都合によりますが)の要求に対し、形態が応えた結果と考えると、ロジカルに答えが出せます。すなわち、イボウイルスは自分の子孫を増やすために、増殖の足場になる表皮細胞を増やすように命令しますが、必ず宿主側の免疫の反撃を受ける(炎症細胞浸潤)ため、足場となる部分の面積は限られてきます。限られた面積で効率的に表皮細胞を増やすには、どうしても乳頭腫状にならざるを得ません。もう一つ乳頭腫になる利点があり、それはウイルスが粒子として現れる顆粒層角層インターフェース部分が乳頭腫構築に応じて凸凹になることにより、増えたウイルスが(過角化物質とともに)別なヒトに感染して旅立っていくための面積が増えることになります。また、ウイルスが増えるためには効率的に表皮細胞に働いてもらわないと困りますが、そのための栄養補給と酸素補給のため上に伸びた真皮乳頭部分に発達した毛細血管が伸びてくるわけです。これがダーモスコピーで観られた美しい血管構築であるわけです。